キス
 

千弥子には一度だけ、晶悟を許せなかった浮気がある。
いや、数え切れない浮気を繰り返す晶悟を許すことは多分永久に無理であるが。
 

あの時、晶悟の浮気に慣れているいないに関係なく、千弥子が絶望に押し潰されそうになった。
 

嫌な予感はしていたのだ。
 

その日は久しぶりに晶悟の家へと行くはずだったが、電車に揺られている最中に携帯にドタキャンのメールが受信されたのだ。
 

このまま引き返すのも何だか癪で、千弥子は街で時間を持て余した。
 

人込みの中で千弥子が見たものは、千弥子が最も信頼していた友人のカナが、晶悟の腕に両手を絡めている場面だった。
ただ、千弥子は茫然とそれを眺めていた。
 

 
「どういうこと、カナ」
 

 
月曜日、学校に行くと千弥子はすぐにカナに話しかけた。
 

 
「どうしたの……、そんなに怖い顔をして」
 

 
カナは何食わぬ顔で驚いていた。
その時千弥子は晶悟も呼び出し、二人を同時に問い詰めた。
 

 
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