カケヒキ
「一之瀬さん絵ー見せてー！」

ある一人の女子が一之瀬さんの机に割り込んで、勝手にノートを取り上げる。
もちろんコレは故意でしている。

「一之瀬さん上手ー！皆来てー！」
「どれどれ・・・わ、凄く上手いじゃーん！」
「これ何のアニメー？」

ふいに出た一人の質問に照れたように

「あ・・・それは【怪盗千里の七不思議】ていうアニメでいつも水曜の―――」

と黙々と語り始めた。

はじめに話しかけた女子とその仲間みたいな人達がわざとらしくフンフン、と頷きながら聞いている。
その後ろで私達のグループは声を押し殺して大爆笑。
私も本気で爆笑していた。




まさか一之瀬さんがソレを見て傷ついたなんて知らなかった。
一之瀬さんはまだずっと得意げにアニメのことを話していたから、気づいていないのかと思った。



一之瀬さんも私と同じ人間で、
同じ大きさの心を持って

私と同じように楽しんだり、傷ついたりして




私はまだ全然「人」を知らなかった。
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表紙・目次

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