カケヒキ
一之瀬さんが変わった。

休み時間に絵を描かなくなった。

空を見るわけでもなく、クラスメイトを見るわけでもなく
虚ろな目でただ座っていた。


一之瀬さんが変わった。
常にキョロキョロと辺りを見回して、警戒心が強くなっていった。

ちょっと変わったことがあれば、一之瀬さんは授業中でも教室を抜け出す。
そして決まってトイレにこもる。



始めのうちは先生も心配していたが、だんだんと習慣になってしまっていて誰も一之瀬さんの変異には気づかなかった。

先生も「いつものこと」と軽く流していた。


だからそれをなんとなく感じていたのはもしかしたら私だけだったのかもしれないし、
助けてあげられたのは私だけだったのかもしれない。



そう思うと脳裏に唯が現れる。

表情はよく分からないが何かを伝えようとしている。

私に対しての恨み?
一之瀬さんを助けてあげて、という願い?


唯は何を伝えたいの―――?


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