粉雪
捨てられたくなかった。


だけどお腹に手を当てると、前と何も変わっていないはずなのに、

そこには確かに“命”が存在しているんだ。



隼人とあたしの…


…赤ちゃん…



“産むんじゃなかった”


母親の言葉が、あたしの頭を支配した。


あたしは、この子を産んだら後悔するの…?


愛した人との間に出来た子なのに、その存在があたしと隼人を離れさせようとする。



あたしには、どちらも選べなかった。


隼人を失わずに済むには、子供を失う。


そんな残酷な現実が、他にあるだろうか。



“望まれない子供”



あぁ、まるで…


それはあたしみたいだね。



じゃあ子供を堕ろせば、また何事もなかったみたいに笑えるの?


隼人は、何も思わないの?


何も、思ってはくれないの…?



怖くて怖くて、仕方がなかった。


苦しくて苦しくて、仕方がなかった。


こんな現実、一人じゃ抱えきれないよ…。


なのに隼人は、手を差し伸べてくれない。


こんなこと、決められるわけがない。


それでもまだ、あたしは隼人を愛してる。


だけどもぉ、元に戻れる自信なんてない。




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