粉雪
「…悪いけど、“タダより高いものはない”って言わない?
優しいヤツが一番怪しいんだよ。」



男が優しくするのは、絶対に“見返り”を求めるものだ。


あたしは、そんな手には乗らない。




『あははっ!眉毛ねぇのに睨んでも、迫力ねーから!(笑)』


「うっさい!」


瞬間、おでこを押さえて真っ赤になった。


悔しすぎて、嫌になる。



『良いから、教えとけって!(笑)』


仕方なく、自分の番号を表示させた携帯を差し出した。



“帰ったら、速攻で着信拒否に入れれば良い”


それくらいしか考えていなかった。







―ピーッ、ピーッ!

番号を交換しているうちに、洗濯機が終了の音を鳴らした。



『乾燥まで終わってるから!
着替えて来いよ!送ってやる!』


言われるがまま、携帯をバッグに投げ入れて、再び脱衣所に向かった。





―バタン!

脱衣所のドアを閉め、壁に背中をつけてため息をついた。


何もしてこなかった男に、拍子抜けと、少しの安堵感が生まれた。


本当に、意味の分からない男だ。




隼人の居るリビングに戻り、コートを手に取った。


ストーブを当てていただけに、すっかり元通りだ。


それを羽織るあたしを確認し、隼人はキーケースを持ち上げて歩き出す。


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