粉雪
『知ってたの?!』


瞬間、今度は隼人が目を見開いた。


だけどあたしは、言葉を続ける。



「…前に一度、お店の前通ったら、お店なくなってたし。
アパートも、今は別の人が住んでる。」


そして顔を上げ、煙草を取り出した。



「あたしだって、何も知らないわけじゃないから…。」


咥えた煙草に火をつけながら、皮肉っぽく笑う。


吐き出された二人分の煙は、だけどやっぱり天井に消えて。


そんなことが、少しだけ悲しかった。


俯いた隼人は、ゆっくりと口を開いた。



『…そっか。
俺も一応、ちーちゃんに言う前に色々調べてみたんだ。
でも、ちーちゃん知ってたんだね…。』


その顔は、あたしなんかよりずっと、辛そうに見えた。


だから余計に、あたしの胸を締め付ける。



「…隼人、ありがとね。
でも、あたしは大丈夫だよ。
もぉとっくの昔に、捨てられたんだし。」


『…じゃあ、追い込んで良い?』


隼人は確認するように、ゆっくりと聞いてきた。


だけどあたしは、遮るように声を上げる。



「…待って。」


そして打ち鳴らす心臓の音を掻き消すように、言葉を続けた。



「元金だけなら、あたしが払う。」


『―――ッ!』


あたしの言葉に、瞬間、隼人は目を見開いた。



『何言ってんだよ?!』


だけどあたしは、笑い掛ける。




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