粉雪
「…今まで必死で働いて貯めたんだよ?
100万くらい、持ってるから。
それにあたし、連帯保証人でしょ?」



大丈夫、あたしは大丈夫。



『何でちーちゃんがそこまでするんだよ?!
勝手に連帯保証人にされて、逃げられてるんだぞ?!』


声を上げる隼人の顔は、やっぱり辛そうで。


そんな顔、見たくなかったんだ。


あたしの為に、そんな悲しそうな顔しないで。



「…そうだね。」


そして、煙草を灰皿に押し当てた。


ついでに隼人の指からも短くなったそれを抜き取り、同じように灰皿に押し当てる。



「でもね、お母さんも、昔はこんなんじゃなかったんだよ?
お父さんが居た頃は、それなりに幸せな時もあった…。」


思い出す過去の母親は、あたしに笑い掛けてくれていた。


顔も覚えていない父親と3人で、あたし達は幸せだったんだ。



「無理言って、高校まで行かせてもらったしさ。
良いよ、100万くらい。」


『―――ッ!』


言葉を詰まらせる隼人に、あたしは笑う。


“大丈夫だ”って、言い聞かせながら。



「…150万くらいなら出せるから。
隼人がこの借証書、いくらで買ったかは知らないけど、それ以上するなら後は母親を探して?」


あたしの言葉に、隼人は何かを考えるように目を伏せる。


流れる沈黙は長くて、だけどあたしは隼人の答えを待った。



『…わかった。』


それだけ言った隼人は、持っていた借用書を破り捨てた。


その瞬間、借用書はただのゴミと化す。



「何やってんの?!」


目を見開くあたしに、だけど隼人は優しく笑った。


そしていつもの笑顔で言葉を紡ぐ。



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