粉雪
―バタン!

『家どこ?近く?』


「…うん。」


そんな言葉と共に、車に乗り込んだ。


掛けられたエンジンにより、通風孔から冷気が流れ出る。


身を縮めながら、コートの前を硬く閉じた。



「カラオケ屋の通り、ずっと真っ直ぐ行ったら、大きい交差点あるじゃん?
あの近くだから。」


男に家まで送ってもらう時、いつもこの台詞を使う。


身を預ける黒皮のシートに、何故か安心してしまう。



『オッケ!』


短く言った隼人は、煙草を咥え、シフトをドライブに入れて車を発進させた。


流れ続ける景色は雨水によって歪み、

だけど隼人から顔を背けるように窓の外を見つめ続けた。




『なぁ、学校どこよ?』


「…何で、教えなきゃいけないの?
あたし、ストーカーされたくないんだよね。」


吐き出す二人分の煙は、狭い車内を包む。


興味もなくそれだけ言い、目線を隼人へと戻した。




『あははっ!ちーちゃん、ケチだな!
誰も眉毛ねぇ女なんか、ストーカーしたりしねぇよ!(笑)』


「アンタ、しつこいし!」


唇を噛み締め、声を上げる。


横目でいたずらに笑われ、嫌でも顔が赤くなる。


眉毛がないのは、あたしのコンプレックスなのに。



「…アンタこそ、何の仕事してんの?
どー見ても、普通のサラリーマンじゃないみたいだし。」



身なりからして、サラリーマンのそれとは到底思えない。


持っている物も身につけているものも、

ブランド物だということくらいはすぐにわかる。


そんな男は怪しい香りしかしない。




『あー…、自営業?(笑)』


だけどそう言うと隼人は、少し困ったようにあたしの顔を見た。


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