粉雪
『俺の指定した所で働け。
逃げたら、その時は分かってるだろ?』


『…はい…』


もはやその顔は、絶望しているようにも見えて。


あれほど強気だった母親と同じ人物だとは、とても思えなかった。



『…で、最後。
この女は、俺が貰う。
異存はねぇよなぁ?』


「―――ッ!」


あたしの方を向いた隼人は、不適に笑った。


あたしは、どうなるの?


あたしも、どこかに売られるの…?



『…どーするつもりですか…?』


まるであたしの言葉を代弁するように、母親は戸惑いがちに聞く。


だけど隼人はその瞬間、母親の胸ぐらを掴んだ。



『てめぇにゃ関係ねぇだろ?!』


そして、吐き捨てるように笑う。


『…金輪際、この女と関わるな。
って言っても、もぉ縁切ったんだっけ?』


『―――ッ!』


怖くなったのか母親は、震える息遣いで隼人にすがる。


だけどあたしは、唇を噛み締めた。



『千里!!助けて!!』


「―――ッ!」


瞬間、耳を疑った。


“助けて”って…?


数年ぶりに自分の名前を呼ばれたのに、

あたしに対する謝罪の言葉は一切なかった。


ただ、自分を保身するだけの為に、あたしをまだ利用しようとする。


その言葉に、あたしの中の何かが音を立てて引いていた。



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