粉雪
「…関係…ないから…!」


唇を噛み締め、目を背けた。


あたしは、こんな人を助けようと思ってたの?


それでもまだ、“母親”だと思ってたの?



『…だとよ。』


『―――ッ!』


ポツリと言う隼人に、母親は言葉を失っていた。


その顔は、憔悴しきっていて。


身なりもボロボロで、あれほど気を使っていたはずの髪の毛まで、

いつの間にか白髪が混じっていた。


捨てたと思っていた娘に、今度は逆に捨てられたのだ。


本当に、哀れな末路だ。




『話はそれだけだ。
マツ!飯食いに行くぞ!』


そんな母親を気にも留めることなく、隼人は声を上げる。


まるでいつも仕事を終えた時と、同じような感じなのだろう。



『…ハイ。』


だけどマツの返事を聞くこともなく、隼人はあたしの車の鍵を取り、

あたしの車の方に歩いた。



「…隼人、車は?」


一気に現実に引き戻されても、混乱した頭は上手く働かない。



『良いよ、放置しとけば。
こんなとこで、誰も取らないだろ?』


そしてヤル気なくマツに向かい、声を上げた。


『マツ!
明日の朝、マンションまで運んどけ!』


『ハイ。』


二手に別れ、それぞれの車に乗り込んだ。


だけどあたしは、母親の方を見ることはなかった。


正直、あんな姿は見たくない。


母親を残し、車は走り去る。


その後ろを、マツの車が続く。


置き去りにされた母親が、これからどうなるのかなんて、聞きたくはなかった。



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