粉雪
「…あたし、隼人に買われたの?」


降りる山道の途中、あたしは口を開く。



『そんなんじゃねぇから。
ちーちゃんは別に、今までと変わんねぇよ。』


だけどその顔は、いつもの隼人の顔だった。



「…あたしのこと、売らないの?」


『ハァ?!売るわけねぇじゃん!』


“何言ってんの?!”と、隼人は眉をしかめる。


その顔は酷く滑稽で、何だか笑いが込み上げてきて。


少しだけ、安心出来たんだ。


だから、今なら聞けると思った。



「…お母さん、どーなるの…?」


『俺の知ってる店で働かせる。
売り上げは全て、俺に入る。』


「…そう。」


大体予想はしていたから、大して驚きもしなかった。


本当にもぉ、あの人とは血の繋がりでしかなくて。


そんなもの、あたしの中では何にもならなかった。



『ハッ!しっかし、ちーちゃんが500だって。
安い買い物したよな~(笑)』


「―――ッ!」


そう言うと、隼人は思い出したように笑う。


だけどあたしはその瞬間、ザワつく胸を隠しきれなかった。


だってそれはまるで、あたしの値段の様に聞こえるから。



「…あたし、これからどーすればいい?」



あたしは今、ちゃんと喋れているんだろうか?


思い出したくない過去は頭をよぎり、こびり付いたように離れてはくれなくて。




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