粉雪
『…さっきも言ったろ?
ちーちゃんは別に、今まで通りで良いんだよ。』


「―――ッ!」



そんなんじゃ、納得出来なくて。



「でも―――」


だけどあたしの言葉を遮り、隼人はいつも通りに笑う。



『ちーちゃんが俺のなのは前からだろ?
俺なら1億でも売らねぇのにな~。
ちーちゃんが500とか、安すぎ!(笑)』


「―――ッ!」


瞬間、目を伏せた。



「…そんなこと…ないよ…。」


あたしには、それだけ言うのが精一杯で。


昔、あたしの体は3万だった。


そんな過去が、あたしの胸を締め付けて。



『…じゃあ、俺が500程度の女と付き合ってるって言いたいわけ?
ちーちゃんさぁ、自分のことわかってる?』


「―――ッ!」



…見くびり過ぎだよ、隼人…。


あたしはそんなに、良い女じゃない。


汚くて、弱くて。


本当は、隼人に愛される価値なんてないんだよ。



『まぁこれで、完璧に俺の女だな!(笑)』




この日あたしは、“酒井千里”の名前を捨てた。


隼人の前では、ただの“ちーちゃん”で。



でもね、嬉しかった。


お母さんのことを思うと、胸が痛まないわけじゃない。


だけど、一生“隼人の女”で居られる証だと思ったから。


あたしはきっと、ずるいんだよ。


嫌われたくなかったから、隠し通した。


隼人の優しさに、甘えてたんだ。



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