粉雪
―――それから車は、一軒の料亭に入った。


後ろには、マツの車が続いた。


響くししおどしの音が、“和”を演出していて。


古く奥ゆかしい、日本の料亭だ。




『とりあえず、お疲れさん。』


個室に通され、隼人の言葉を合図に乾杯した。


カランッとぶつかる3人分のグラスの音は、小気味良い音を響かせていて。


あたしはそれを、流し込む。



『…あの、俺まで良いんすか?』


マツは、戸惑いがちに聞いてきた。



『最近、飯食わせてやってなかったしな。
好きに食や良いよ。』


『…頂きます。』


言葉を合図に、マツは箸をつける。


だけどあたしは、何となく先ほどのことを思うと食が進まなかった。



『…てめぇ、誰の女ジロジロ見てんだよ?
死にてぇか?』


「―――ッ!」


瞬間、あたしはハッとしたように顔を上げた。


隼人の言葉に焦った様子のマツは、急いで口を開く。



『…スンマセン。
でも、隼人さんの女だけあって、凄ぇ綺麗だと思って…。』


「―――ッ!」


この人が何を言っているのか、まるでわからない。


あたしは、弱くて汚い女なのに。


みんな、何も知らないんだ。



『ハッ!当たり前だろ?
その辺の汚ぇ女と一緒にすんなや!』


そう言うと、隼人はニヤリと笑う。


そしてそれが当たり前であるかのように、次の言葉を紡ぐ。



『まぁ、お前が惚れる気持ちも分からなくもねぇけど。』


「―――ッ!」



違うよ、あたしはそんな女じゃない!!


だけど結局、何も言えなくて。



『…惚れたら俺、殺されますから…。』


『分かってんじゃねぇか!
成長したなぁ、マツ!』


マツに見せる顔は、初めて見るような顔だった。


俯くマツの、考えていることがわからない。


何で隼人が、そこまで想ってくれるのかもわかんない。


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