粉雪
『…ちーちゃん、立って。
帰るよ?』


「―――ッ!」


顔を上げると、倒れているのは男達だけだった。


隼人の服は返り血で汚れ、だけど傷一つないことだけが救いだった。




「…うん。」


先ほどまで掴まれていた腕が痛くて。


だけど気にならないくらいに、隼人の顔を見るのが怖い。


今、何を思っているんだろう?


きっと、軽蔑してる。


あたしは隼人に捨てられたら生きてはいけないのに。


だけどこれは、自業自得だから。



涙で霞んだ視界に映るのは、隼人の後姿。


だけど今日は、それが遠く感じて。


怖くて仕方がなかったんだ。



車に向かっている間、何も言わない隼人がただ怖かった。


全部バレたのに、まだ“嫌われたくない”って思い続けてた。



車の中でも会話はなく、隼人の煙草を吸う吐息だけが聞こえ続けて。


怖くて、悲しくて。


でも、あたしが泣いちゃダメなんだ。



漂う煙は、車内を支配し。


胸が締め付けられる。


息苦しくて、堪らない。



何か言って欲しかった。


だけど、捨てられる言葉なんて聞きたくなくて。


苦しくて苦しくて、仕方がなかった。



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