粉雪
『…アンタ、話には聞いてたけど、本物のアホお嬢様だな。
俺が金持って逃げたら、どーすんの?』


ハッと笑い、隼人は蔑むようを香澄に向けた。



『…千里ちゃんの知り合いなら、信用出来ますから…。』


唇を噛み締めながら香澄は、それだけ言った。


きっともぉ、他に頼る場所はないのだろう。



『ハッ!友達にも、好きな男にも裏切られたのに?
こいつのこと、信用するの?』


『…最後の賭けですから。』


力強いその目に、あたしは何も言えなくなった。



『…わかったよ。
アンタは何もせずに見てろ。』


『ありがとうございます!!』


香澄の顔は明るくなり、隼人に深々と頭を下げた。


宵闇に包まれた公園に、ひときはその声がこだまして。


感謝の言葉が、あたしの罪悪感の欠片をつつく。


本当に、これで良かったのかはわからない。


疑りさえない香澄の瞳を、あたしは直視することが出来なかった。



『ちーちゃん、帰るぞ?』


「…うん。」


あたしの腰に手を回した隼人は、煙草を咥えた。



『千里ちゃん!ありがとう!!』


「…悪いけどあたし、何もしてないから。
お礼なら、この“本田さん”に言いな?」


それだけ言って、香澄に背を向けた。


やっとこの場所から逃れられることへの安堵感と、

これから起こるであろう事への不安感。


その両方が、あたしを包む。



それから隼人は、マツに電話を掛け、

香澄の友達だった女と、好きだった男を捜させた。


もぉあたしには、関わることさえ許されない問題になったのだ。



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