粉雪
スクラップ工場には、2台の黒塗りの車があった。


一つは隼人ので、もぉ一つはマツの。


その横に車を停めると、あたしまで緊張が走る。



「…行くよ?」


『うん。』


互いに確認するように言い、車から降りた。


無人のその場所に、あたし達の靴音が響く。


半開きになっているその扉の中に足を進めた。


薄暗い倉庫のような場所で、窓からの光が筋になって何本も差し込んでた。



更に足を進めたあたし達の目の前に広がっていたのは、ボロボロの男女の姿。


時折、小さな呻き声が聞こえてきた。


その姿に、嫌でも血の気が引いてしまう。


それ以上足が動かないあたし達に、隼人は不似合いなほどに普通に笑う。



『ちーちゃん、ご苦労さん♪』


だけど次の瞬間には、その瞳に険しささえ混じらせて。



『オイ、復讐女!
この二人で、間違いねぇよな?』


『…ハイ…。』


香澄の声は、震えていた。


無理もないだろう。


特に男の方は、腫れ上がった顔からは原型すらも想像出来ない。


何をされたのかくらい容易に想像出来るから。



『良かったなぁ、マツ!
違ってたら、関係ない人間が売られるトコだったぞ?』


『大丈夫っすよ、確認しましたから。
そこまで馬鹿じゃねぇっす。』


この凄惨な中、笑いあっている二人に、香澄の顔からは血の気が引いていた。


初めて目にした、隼人の生きる異常な世界。


あたしでさえ、吐き気すらも込み上げてくるのに。



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