粉雪
『…ところでアンタ、金は持ってきた?』


そう言うと隼人は、香澄を睨みつけた。


ハッとした香澄は、急いでバッグをあさり、財布から一枚のカードを取り出した。


そしてそれを、震える手で隼人に渡す。


多分、銀行のカードだろう。



『…この中に入ってます!
暗証番号は0303!
きっちり、50万です!』


『…違ってたら、命ねーぞ?』


『大丈夫です!』



自分を陥れた人間に、お金を払って復讐をした香澄。


お金のために、あたしのために隼人は、それを引き受けた。


決して、香澄のためなんかじゃない。


ただそれぞれに、利益になっただけのこと。


正義感なんてこれっぽちもないけど、それでも気持ち良くはない。



『…マツ、これやるわ。
てめぇで好きに使え。』


そう言うと、隼人はマツにカードを手渡した。



『そんなこと、出来ません!』


『アァ?俺が良いつってんだろーが!
ボーナスみてぇなモンだよ!
受け取れ!』


『…ハイ。
ありがとうございます…。』


マツは深々と頭を下げた。


たったの50万で、人の人生が変わった瞬間。


それほどまでに重いお金が、簡単に人の手を渡っていく。


あたしの目の前に居るのは、隼人であって隼人じゃない人。


頼んだのは、あたしなのに。


こんな隼人、何度見ても慣れることはない。




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