粉雪
―――いつもの料亭に着くと、そこには既に、隼人とマツの車があった。
いつもの仲居さんに、一番奥の個室に案内される。
相変わらずのししおどしの音と、ミシッと音を立てる廊下を歩く度、
自然と背中の筋が伸びるのを感じる。
『…ご苦労さん。
先にやってるから。』
障子を開けると、ビールのグラスを片手に、隼人はこちらに笑顔を向けた。
あたしはその隣に腰を下ろし、ため息を混じらせる。
「…そう。
あたしも一杯ちょうだい?」
気が抜けたのか、一気に疲労感が襲ってきて。
そんなあたしに、隼人は心配そうに顔を覗きこんで。
『…あの女に、何か言われた?』
「…そんなんじゃないよ…。
ただ、馬鹿だとしか思えないから…。」
だけどそれは、あたしも変わりない。
ビールを口に運び、車の中でのやり取りを話して聞かせた。
『…ちーちゃん、あのな?
目的がある方が、のし上がれるもんだよ?
これからどぉ転ぶかは、あの女の身の振り方次第だよ。』
「…それは、わかってる…。
でも、これで一人の人間の人生が変わった。」
隼人の言ってることもわかるけど。
だけどどうしても、これで良いのかと思ってしまう。
『…話をつけたの俺だ。
あの女は、自分で決めた。
ちーちゃんは何も関係ないだろ?』
「…うん、ありがとう…。」
あたしの不安を案じ、いつも安心させるような言葉ばかり選んでくれる隼人。
いつもいつも、あたしは隼人に守られっぱなしだね。
隼人がもっとヒドイ男なら良かった…。
そしたら隼人は、居なくならなかったかもしれないね…。
でも、そんな隼人なら、きっとあたしは好きにならなかった…。
結局、あたし達の運命は最初から決まっていたんだ。
いつもの仲居さんに、一番奥の個室に案内される。
相変わらずのししおどしの音と、ミシッと音を立てる廊下を歩く度、
自然と背中の筋が伸びるのを感じる。
『…ご苦労さん。
先にやってるから。』
障子を開けると、ビールのグラスを片手に、隼人はこちらに笑顔を向けた。
あたしはその隣に腰を下ろし、ため息を混じらせる。
「…そう。
あたしも一杯ちょうだい?」
気が抜けたのか、一気に疲労感が襲ってきて。
そんなあたしに、隼人は心配そうに顔を覗きこんで。
『…あの女に、何か言われた?』
「…そんなんじゃないよ…。
ただ、馬鹿だとしか思えないから…。」
だけどそれは、あたしも変わりない。
ビールを口に運び、車の中でのやり取りを話して聞かせた。
『…ちーちゃん、あのな?
目的がある方が、のし上がれるもんだよ?
これからどぉ転ぶかは、あの女の身の振り方次第だよ。』
「…それは、わかってる…。
でも、これで一人の人間の人生が変わった。」
隼人の言ってることもわかるけど。
だけどどうしても、これで良いのかと思ってしまう。
『…話をつけたの俺だ。
あの女は、自分で決めた。
ちーちゃんは何も関係ないだろ?』
「…うん、ありがとう…。」
あたしの不安を案じ、いつも安心させるような言葉ばかり選んでくれる隼人。
いつもいつも、あたしは隼人に守られっぱなしだね。
隼人がもっとヒドイ男なら良かった…。
そしたら隼人は、居なくならなかったかもしれないね…。
でも、そんな隼人なら、きっとあたしは好きにならなかった…。
結局、あたし達の運命は最初から決まっていたんだ。