粉雪
『ハッ!人の女、汚ぇ目で見やがって!
殺すぞ!』


隼人の声に、部屋中の空気が凍るのを感じて。


そんな重圧、あたしなんかじゃとても耐えられなくて。



『…スンマセン…。
でも、隼人さんになら、殺されても文句は言いませんから…。』


『…お前、本物の馬鹿か?』


隼人はそれだけポツリと言った。


その瞳を、相変わらずあたしは直視なんか出来なかったんだ。



『…スンマセン…。』



何が起こっているのかわからなかった。


状況を整理するだけの冷静な判断なんて、出来なかったから。




「…ごめん、あたしトイレ。」


それだけ言い、逃げるように部屋を出た。



トイレの個室に入り、堪えきれなくなった涙を流した。


隼人は、絶対あんなことはしないのに…。


何で?


何がしたいの…?


疑問符ばかりが頭の中を巡った。


隼人のことを、初めて“怖い”と思った。


その姿を思い出すたび、震えてしまう。



涙を拭き、覚悟を決めて隼人の待つ個室に戻った。




『おっ、ちーちゃん遅い!』


「…ごめん…。
でも、マツくんは…?」


その部屋に、マツの姿はなかった。


そして隼人は、先ほどのことが嘘であるかのような顔をあたしに向けている。



『…居て欲しかった?』


「そんなんじゃないよ!!」


瞬間、再びあたしに冷たい目を向ける隼人に、背筋が凍りついた。


もしかしたらあたしは、隼人に嫌われたのかもしれない、と。




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