粉雪
6月になったある日、隼人は本当にあたしを連れ出してくれた。


空は快晴で、その日差しさえもキラキラと輝いているようにも見えて。



「―――隼人~!
近くに海あるよ!!
で、ちょっと先には遊園地もあるんだって!!」


旅行雑誌を眺めながら、赤ペンで目ぼしい所に印をつけた。



『…で?』


だけど隼人は、口を尖らせながら横目にあたしを捕らえる。



「…何でそんなにテンション低いの?」


『誰かさんが“安全運転しろ!”ってうるせぇからだろ?!
頼むから180出させてよ。』


「ダーメー!」


高速を運転する隼人を横目に、トッポを食べながら口を尖らせた。


どうも隼人は、安全運転が嫌いらしいけど。


その辺は、昔から直らないところ。



「…トッポあげるから機嫌直して?」


『やだ。』


子供みたいに拗ねたその顔は、あたしの方に向こうとしなかった。


差し出したのに受け取られなかったトッポに、あたしは頬っぺたを膨らませた。



「…じゃあ、知らない。」


『…わかったよ。
食えば良いんだろ?!』


「あははっ!隼人大好き♪」


『…ハイハイ。』




優しい隼人が好きだった。


でも、優しすぎたからダメだったんだね。


あの瞬間、嘘でもあたしが笑ってあげれば良かった。


それだけは、今も心残りだよ。




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