粉雪
電話を切って煙草を消し、ベッドに大の字に寝転がった。


低い天井が、あたしを安心させる。



疲労感から、睡魔が襲ってきて。


噛み殺すことも出来ないあくびに、自然と目を瞑ってしまう。



今日も朝から晩までバイト三昧だった。


ついでに言うと、明日もバイトが詰まっている。


土曜だし、残業覚悟だな。


疲れるから嫌な気持ちと、お金が稼げて嬉しい気持ちが、半分半分を占めた。


あたしはいつになったら、この生活から抜け出せるのだろう。




携帯を開くと、着信履歴には、“隼人”の文字が残されたままだ。


このまま着信拒否にすれば、二度と会うこともない。


だけどメニューを開いても、そこからあたしの指は動かなかった。




“怪しい男”なんて、母親の店の手伝いをしていれば必ず遭遇していたから、

今更怖い訳でもない。


ただ、下心が全く感じられない顔で笑う隼人は、

そんな人たちよりもよっぽど怪しく思えてしまった。


ため息をついて、携帯を放り投げた。


明日考えよう。


次第に重くなる瞼に勝てず、流されるように目を瞑った。



いつの間にか上がった雨にも気付かずに―――…





あたしがあの時、傘を持っていれば…


5分だけ、バイト先を遅く出ていれば…


隼人の車になんか、乗り込まなければ…



あたしは人並みに幸せな人生を歩んでいたんだろうか?


その“幸せ”で、あたしの孤独は埋められた…?




隼人はまるで、“粉雪”みたいだね―――…




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