粉雪
「…隼人、あたしずっとここに居たい…。」


一緒にお風呂に入りながら、夜の海を眺めた。


眼下に望む真っ暗な海はホテルからの光を浴び、波音を響かせる。



『あははっ!無理無理!!
ここ、すげぇ高いよ?(笑)』


「…そんなこと言ってるんじゃないよ。」




この街では、誰もあたし達を知らない。


堂々と歩けるし、何も気にすることなんかない。


あの街には、帰りたくないよ…。




『…わかってるよ。
でも、帰ったらまた、仕事が待ってる…。』


あたしの気持ちを見透かしたように、隼人も同じように海を眺めた。


2泊3日なんて、すぐに過ぎる。


そしたらまた、あの日常が待ってるんだ。



「…うん…。」


『…また、連れてきてやるよ…。』


「…うん、約束ね?」



風は少しだけ湿度を含み、潮の香りが鼻に付く。


梅雨が明けたら、もぉ一度あの浴衣を着たい。


贅沢なんて言わないから。


来年でも、再来年でも良いのに。


そう思っていたはずなのに。


いつになったら、この約束は果たされるの…?


そんなこと、一生ないのにね。




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