粉雪
「…てゆーか、温泉じゃなかったっけ?」


『…露天風呂みたいなモンだろ?
てゆーか俺、畳嫌いだもん。』


「…意味わかんないし。」


言い出したのは、隼人なのに。


なのにこのホテルは、どう見たって温泉宿のそれとは大違い。



『何か、貧乏人みたい!(笑)』


「…お金持ちで畳好きな人、イッパイいるよ?」


湯船から出てあたしは、煙草を咥えた。



『…そーかもしんないけど。
俺は、畳で生活だけはしたくないから。』


「…あっそ。
じゃあ、あたしが“畳みで生活したい!”って言ったらどーする?」


『…それは困るな(笑)』


同じように湯船から出た隼人は、あたしのつけた煙草を抜き取り、

一口吸うと、またあたしの指に戻した。


あたし達の吐き出した煙が、星空へと消える。


本当は和食好きのくせに、畳が嫌いとかよくわかんない。




それから知らない間に運ばれてきたケーキを、二人して食べた。


確か、チェックインの時に聞かれたやつだ。



『ケーキはやっぱ、モンブランだよな♪』


「…ガトーショコラでしょ?」



いつまで経っても、あたしの好みは変わらない。


だけど隼人だって、ケーキと言えばこればっか。



「…季節外れの栗なんか食べて、どーすんの?」


言いながら、隼人の口に栗を入れてあげた。



『…季節外れの浴衣着るヤツに言われたくねぇけど?(笑)』


困ったように笑いながら、あたしの鼻の頭にモンブランをつけた。


その瞬間、甘い香りが文字通り鼻について。



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