粉雪
『待ってください!!
スンマセン、俺が悪かったっすから!!』


「…良いよ、あたし、歩いて帰る。
荷物よろしく。」


マツを睨み付けた。


車から降り、背を向けるあたしに、マツは頭を下げて。



『…頼むから乗ってください…。
アンタ放置したなんて知れたら、俺はどーなるかわかりません…。』


「アンタのことなんて知らないよ!!
隼人が怖いなら、黙っとけば良いじゃん!!」


何もかもがイラついて、マツを怒鳴りつけた。


旅行がダメになってのだって、マツの所為じゃないこともわかってる。


だけど、どうしようもなくこの男に腹が立った。



『…じゃあ、俺が降ります。』



信号が青になっていたが、イカついセダンとイカついマツに、

誰もクラクションを鳴らす者はいなかった。


梅雨前とは思えないほどの日差しが、差すように照り付ける。



「…あたしが隼人の車、運転できる訳ないじゃん…。」


必死そうなマツに、あたしは諦めて車に乗った。


怒ったってどーせ、歩いて帰れる距離なんかじゃない。



『…アンタ、大切にされてんすね。』


「アンタに関係ないじゃん!」


あからさまに窓の外を見つめ、声を上げた。


まるで自分自身の熱を冷ますように、エアコンの風を浴びて。



『…ハイ。』


それからの車内は、また沈黙が続いて。


気付けば灰皿は、一杯になっていた。



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