粉雪
『―――何で呼ばれたか、わかってるだろ?』


親父の臭い息が、顔の近くまで来た。


到底朝だとは思えないような、薄暗い部屋。


唾さえも掛かりそうで、吐き気が込み上げてくる。



「…知らない。
つーかアンタ、臭いから。」



―バン!

『ふざけんじゃねぇぞ?!
てめぇがシャブ流すの、加担してんの知ってんだぞ?!』


あたしの態度に、男は机を思い切り叩いて声を荒げた。



「…知らない。」


相変わらず、あたしは飄々とした態度を取り続けた。



『貴様、いい加減に吐け!!』


「…知らないって言ってんじゃん。
てゆーかコレ、任意でしょ?
脅してんの?」


『てんめぇ―――!』


「―――ッ!」


瞬間、あたしは胸ぐらを掴まれた。



「…オマケに、セクハラもアリなの?
ハッ!最近の警察って、凄いんだね!」


馬鹿にしたように笑ってやった。


男の顔は、今の瞬間にもあたしに殴りかかりそうなほどの勢いで。



『―――ッ!』


『―――警部!!
やめてください!』


女性警官が、慌てて止めに入った。



『チッ!
男が男なら、女も女だな!』


言いながら男は、唇を噛み締めて部屋を後にした。



…大丈夫…


あたしも隼人も、大丈夫…!


自分自身に言い聞かせ続けた。




「…オバサン、煙草貰えないの?」


『吸える訳ないでしょ?!』


「…あっそ。」


窓もない部屋で、汚い天井を見つめた。




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