粉雪
『…ちーちゃんも、悪かったな…。』


「…大丈夫だよ。
あたしはすぐに出てきたから。」


『…そっか。
てゆーか、仕事の話するし、向こう行ってて?』


「…うん…。」


ゆっくりと立ち上がり、別の部屋に向かった。


バタンと閉めた瞬間、二人の声は聞こえなくなって。


だけど何も考えたくなくて、ただ音楽を流し続けた。


不安ばかりに、押し潰されそうになる。


それから、隼人とマツの話は、2時間にも及んだ。






―カチャ…

『ちーちゃん、こっちおいで?
マツ、帰らせたから。』


部屋のドアがゆっくりと開き、隼人が顔を覗かせた。



「…うん…。」


音楽を消し、リビングにきびすを返した。


今まで掻き消してくれていたはずの心臓の音が、全身に響くほどに大きくて。


自然と呼吸が乱れるのを感じる。




『…ちーちゃん、ホントにごめん…。
まさか、こんなに早いとは思ってなかった…。』


「…良いよ、覚悟はしてたから。
ただ、あのオッサン、息臭すぎだし!」


『ははっ!ちーちゃんも、そー思った?』


他愛もない会話に、少しだけ落ち着いた。


だけど、先に切り出したのはあたしの方。



「…ねぇ、隼人…。
これから、どーなるの?」


『…大丈夫だよ。
他にもシノギはあるから。
ただ、シャブは危険だ。』


「…そう…。」



精一杯の勇気で隼人に聞いたのに、

隼人は“仕事を辞める”なんて言ってはくれなかった。


あの時あたしが、意地でも辞めさせてれば良かったのにね。



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