粉雪
あれから何度か、あたし達3人は警察に呼ばれた。


だけど、誰も口を割ることはなかった。


それから約1ヵ月後、突然事件は起きた。



―バタン!

「…何…?」


玄関から聞こえた大きな音に、驚いてあたしはそこに向かって。


瞬間、目にした光景に息を呑んだ。



「隼人?!何があったの?!」


マツに肩を貸され、隼人の腕からは血が流れていた。


いつかの光景が、フラッシュバックされて。


ポタッと一滴、隼人の血が雫となって零れ落ちる。



『…心配すんな。
クソチンピラにやられただけだ…!』


「一体どーゆーこと?!」


脂汗を滲ませる隼人を、急いでソファーに運んだ。


こんな光景を目にする度、あたしは震えが止まらなくなって。



『隼人さん、スンマセンした!!
俺が代わりに殺られてりゃ―――』


『―――ァ!!
マツ!てめぇのおかげでこの程度だったんだ…。
気にすんじゃねぇよ…。』


あたしに消毒をされながら、隼人は傍目からでもわかるほどに気丈に振舞う。


雪のように白かった脱脂綿は、次々に鮮血の色に染められて。



『…でも…』


『黙れや!
俺はてめぇの親父でも兄貴でもねぇだろーが!!
極道みてぇなこと言ってんじゃねぇよ!!』


『…スンマセン…。
今度からは、ドス用意しときます!』


『アァ?!てめぇわかってんのか?!
今、そんなモン持ってたら、銃刀法で引っ張られるだろーが!
“ドス”なんて危ねぇ言葉、使ってんじゃねぇ!!』


『…スンマセン…。』


マツは唇を噛み締め、深々と頭を下げた。



『…明日の引渡しの件、てめぇに任せる。
抜かりねぇよーにしとけ!』


『…ハイ、失礼します…。』


また一礼し、マツは部屋を出た。




< 195 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop