粉雪
「…まだ、仕事するんだね…。」



あたしには、それだけしか言えなかった。


気を抜くと、涙が出てきそうで。



『…心配すんなよ。
あれは、違法じゃねぇ。』


「…わかってる…。」



“金融車”と呼ばれる車は、確かに違法ではない。


だけどもぉこれ以上、隼人に危ないことはさせられないよ。



「ねぇ、何があったの?!」


『…どっかのチンピラが、俺を狙ってる…。
刺す勇気もねぇクセに、調子に乗りやがって…!』


そう言うと隼人は、思い出したように唇を噛み締めた。



『…振り向きザマだよ。
マツが気付いて、こんなモンで済んだ…。』


「…そう…」



あたしには、何も言えなくて。


ただ隼人の手当てをすることしか出来ないから。



『…ごめんな、ちーちゃん…。
でも俺は、ちーちゃん残して死なねぇから。』


「…当たり前じゃん…。
それに、“死ぬ”なんて、嘘でも言わないで…?」


『ははっ、だな。』


不安になり、隼人を抱き締めた。


何もかもわかったように、隼人はあたしに優しくキスをしてくれた。



全てが狂ったのは、警察の所為?


それとも隼人の仕事が悪かったから?


誰かの所為に出来るなら、まだ良かったのかもしれないね。



お金が欲しいんじゃない。


こんな広いマンションに住みたいんじゃないのに。


“隼人の傍に居たい”と願うことは、こんなにも苦しいことなのかな。




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