粉雪
―――夏になると、あたしと隼人の生活は、ホントにすれ違いだった。


隼人は真夜中に帰ってきて、あたしが起きる頃にはまだ夢の中。


あたしが仕事から帰ってくると、そこに隼人の姿はない。




その日あたしは、たまたま仕事が休みで。


隼人のスーツをクリーニングに出そうとしてポケットを探った。



「…?」


紙切れの束の感触に、不思議に思いゆっくりと手を抜いた。



「―――ッ!」


そこには、無数のキャバクラの女の名刺がある。



「…何なの…コレ…?」


口元を押さえ、力が抜けていく自分の体を支えきれず、足元から崩れ落ちた。


手から抜け落ちた名刺は、パサパサと床に散らばって。


ひんやりとした感覚が、そこからあたしの体の熱を奪う。


確かに隼人は、仕事柄キャバクラなんかで接待をすることもよくあった。


だけど、いつも名刺は受け取らない。


なのに何で、こんなものが大量に出てくるのかわからない。


浮気?


だけど、そんなのありえない。


隼人がそんなことする筈がない…!



震える手で煙草を取り出した。


口の中が渇ききり、心臓が嫌な波を打ち続けていて。



毎日毎日、隼人が帰るのは真夜中ばかり。


“仕事”と言われることに、今までは何の疑いさえも感じていなかった。


だけど今は、その全てが嘘にさえ感じて。


何を信じれば良いのかわかんない。



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