粉雪
―バタン!

『遅いと思ったら、化粧が濃くなってんじゃん!』


「…悪い?」


コートで体を包んで、ヤル気なく隼人の車に戻った。


コイツの趣味に合わせる必要はない。


第一、あたしはあたしだ。



『さっきのが可愛かったのに~。』


そう言うと、隼人は子供みたいに口を尖らせた。


だけどあたしに笑いかけ、言葉を続ける。



『…まぁ、良いよ。
“怪しい男”から昇格したから家教えてくれたわけだし。』


「…あたし、そんなこと一言でも言った?」


『違うの?残念~!』



全然、残念そうじゃない顔で言われても、腹が立つ以外にない。



『とりあえず腹ごしらえだな!
ちょっと遠出だし、何も食べてないだろ?』


「…どこまで行く気?」


『県境だよ!』


「ハァ?!」


隼人の言葉に、口元を引き攣らせた。


そんなに遠いと、万が一逃げても、帰ってこれるか微妙だ。


財布の中に入れてある一万円札を思い出し、大きなため息をついた。




『まぁ、良いじゃん!
“楽しい二人旅の出発”ってことで♪』



何も良くない。


こんな男と、往復5,6時間も一緒なことに、憂鬱になってしまう。


だけど、仕方がない。


あの雨の日、あたしがこんなヤツの車に乗り込んでしまったから、

全ては自業自得なんだ。


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