粉雪
『…ちーちゃん、ごめんな…?』



隼人のやってることは、ホントにメチャクチャだった。


無理やりセックスをして、悲しそうにあたしを見つめる。


ただ悔しくて、隼人に背中を向けたまま、何も答えなかった。


謝るくらいなら、何もしなければいいのに。


隼人にとってセックスが、あたしと繋がる唯一の方法だってこともわかってた。


だけど、そんなことでしか確かめられない愛情なんて、あたしは要らないよ。




―カタッ…

「…?」


真夜中、小さな物音で目が覚めた。


薄目を開ける、隼人が暗がりで携帯を握り締め、どこかに電話を掛けていた。




―ピッ…

『…俺だよ。
電話してくるなって言ったろ?!』


「―――ッ!」


相手が先ほどの女であることは、すぐに察した。


その瞬間、ただ泣きたくなって。


結局隼人は、あたしもその女も、両方必要なんだ、って。



『…違うって。
香澄、愛してるのは、お前だけだ!
わかってるだろ?
あぁ、取引だ…!』


「―――ッ!」



聞き間違いなんかじゃなかった。



“香澄”


思い当たる人間は、あの女しかいない。


あたしには、“同じ名前の別の女”なんて考えられなかった。


唇を噛み締め、必死で耐え続けた。



隼人を信じるなんて事、もぉ出来なかった。


小さな意地とプライドだけ。


負けたくなんてなかった。


あたしには、隼人を失ったら何も残らないから。



『…ちーちゃん、ごめんな…?
おやすみ…。』


「―――ッ!」


電話を切った隼人は、寝ていると思ったのかあたしの頬にキスを落とし、

眠りに着いた。


隼人のやっていることは、本当に何もかもがメチャクチャで、

あたしには何を信じればいいのかすら分からなかった。


あたしにも“香澄”にも同じ言葉を使い、寝ているあたしにキスをする。


全部あたしの為だったこと、気付けなくてごめんね。



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