粉雪
―――次の日、仕事が終わるのを見計らったように隼人からの電話が鳴った。


正直、出る気分なんかじゃなかったけど、ため息をついて通話ボタンを押した。



―ピッ…

「…何?」


『…仕事、終わった?
外、寒いから。
暖かくしとけよ?』


「…そうだね。
隼人まで風邪がうつったら大変だもんね。」


気を使ったように話す隼人に、無性にイラついた。


まるで、ご機嫌取りでもされてる気分だ。



『…違うよ、ちーちゃん…。
ちーちゃんが風邪引くのが心配なんだよ…!』


「看病出来ないくせに、もっともらしい事言わないでよ!
あたしが風邪引けば、ずっと傍に居てくれるの?!」


一度出た言葉は、止める事も出来なくて。


昨日のことが、脳裏にこびり付いたように離れない。



『…ごめん。
今日も遅くなるから…。
でも、何時になっても帰るから!』


“ごめん”


いつもいつも、そんな言葉で片付けられる。


もぉいい加減、ウンザリだ。



「知らないよ!!
そんなことでイチイチ電話してこないでよ!!
あたし、帰らないし!」


『ちーちゃん、何で―――』


強引に電話を切り、また泣き崩れた。


堂々と“他の女の所に行く”なんて言われても、

あたしには、“待ってる”なんて言えなかった。


少しだけ期待したのに、再び隼人から電話が掛かってくることはなかった。


ほら、やっぱり、って。


全てを諦め、街に向かった。


どこにもあたしの“帰る場所”なんてなくて、

気付いたらあたしには、隼人しかいなかった。


だけどもぉ、隼人の居る家なんかに帰りたくはない。


ただひたすら、他の女のところから帰ってくる隼人を待ってるなんて。



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