粉雪
「…ねぇ、マツ…。
一つだけ、聞かせて?」


『…何すか?』


涙を拭き、マツの目を見据えた。



「…相手は、“安西香澄”でしょ?」


『―――ッ!』


ゆっくりと聞いた言葉に、マツは目を見開いて。


そして伏せるように、顔を俯かせた。



『…俺は、何も言えないから…。』


「…馬鹿だね…。
それじゃ、肯定してるのと一緒じゃん…。
…やっぱアンタ、嘘は向いてないよ…。」



散々泣いたから、今更涙は出なかった。


心配そうなマツに、あたしは少しだけ笑いかけた。


それからマツは、何も言わなくなって。


いつからあたしは、騙されてたのかな、って。





「…ありがとね。
アンタのおかげで、一応ラチられずに済んだから。」


マンションの下まで送られ、ドアに手をかけた。



『…俺も、一つだけ聞いて良い?』


ゆっくりとマツは煙草を吹かしながら、口を開いて。



「…何?」


『…何でアンタは、それでも隼人さんと居るんだ…?』


「―――ッ!」



突然の言葉に、思わず目を見開いた。


だけどマツは、構わず言葉を続けて。



『そこまでされてるのに、何で愛し続けられるんだ?!』


「…わかんないよ…。
ただあたしには、他に帰る場所、ないから…。」



隼人のこと、今は“愛してる”なんて言えない。


それでももぉ、あたしには選択肢なんて残されてないから。



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