粉雪
…もぉ、死のう…。


あたしには、こんなの耐えられない。


居場所も、逃げる場所もない。


洗面所に行き、剃刀を手首に当てた。







―ガチャ…

「―――ッ!」


『ちーちゃん?!
何やってんだよ?!』


瞬間、タイミングよく帰ってきた隼人は、驚いてあたしに駆け寄った。


その瞬間に、死ぬことさえも取り上げられた気がして。



「…何で帰ってくるの…?
…折角…死のうと思ったのに…!」


『…俺を残して死なないでよ…』


隼人の悲しげな瞳に、涙が溢れた。


そして隼人は、ゆっくりと言葉を紡いで。



『…ちーちゃんが死ぬんなら、俺も一緒だ…。』


「…そんなの…出来る訳ないじゃん…!」



…何で、そんなこと言うの…?



『…ホントは、ちーちゃんに殺して欲しいと思う…。
けど、ちーちゃんが俺なんか殺したら、一生その罪を背負って生きていくことになるから…。
そんなこと、させられないよ…。』


“だから、死ぬんなら一緒だ”と、あたしの手に触れて。


その指先が、ただ温かかった。



「…隼人、死んじゃダメだよ…。
ごめん…もぉしないからそんなこと言わないで…」



剃刀は取り上げられ、ただその場で泣き崩れるしかなかった。


皮肉にも外はいつの間にか雨になり、出会ったあの日を思い起こさせた。


あたし達はいつの間に、こんな風になってしまったの?


生きる希望すら、見い出せなくて。


二人で死ねたなら、どんなに楽だっただろう。



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