粉雪
“安西香澄”


隼人に抱かれながら、頭の中を支配し続けた名前。


ホントは隼人に触られたくなかった。


だけどあたしにも、セックス以外に隼人を繋ぎとめる術なんてなかったから。


あたしの名前を呼ぶ隼人のことだけを考え続けた。


いつの間にこの行為を、幸せなものだと思えなくなったのかな。


あたしの心の中を表しているように、ただ雨音だけが響き続けて。







「…食器、何で割ったの…?」



もぉ、何も考えることが出来なかった。


ベッドから起き上がる気力さえあたしには、残されてはいないのに。




『…ごめん。
一旦家に帰ったら、ちーちゃん居なかったから…。
ホントに出て行ったんだと思った。』


あたしの指に絆創膏を張りながら、隼人は悲しそうにそう告げて。



「何であたしの心配するの?!
電話だって…掛け直してこなかったくせに!!」


顔を覆い、声を荒げた。


思い出したようにまた、涙ばかりが溢れてきて。



『…ごめん。
俺には、ちーちゃん止める権利ないから…。』


「―――ッ!」



愛しすぎて、苦しかった。


この地獄は、一体いつまで続くの?



「あたしには、他に帰る場所ないんだよ?!」


『…ちーちゃんに“帰る場所”なんていらないよ…。
俺の傍に、ずっと居れば良い。』


「―――ッ!」



もぉ、誰かに止めて欲しかった。


隼人の愛は異常で、あたしも狂っていて。


自分達にはどうすることも出来なかったんだ。


あの時別れを切り出していれば、

少なくともあたし達の未来は変わってたのかな?




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