粉雪
「…ありがとね、マツ…。」


ゆっくりとあたしは、立ち上がった。


同情なんて、されたくないからあたしは、口角を上げて。



「アイツの香水、ベビードールでしょ?
隼人、一番嫌いなんだよね。
だから、アイツは“一番”なんかじゃない。
良いよ、それがわかったから。」



あの女は、隼人の一番嫌いな香りを纏い、

“本田賢治”としての隼人しか見ていない。


そんな女に言われた台詞なんか、何ともない。




『…何でアンタは笑ってられるんだよ?!』



正直、笑っていないと正気が保てない。


でも、あんな女なんかに絶対負けない。


意地とプライドだけがあたしを支えた。



『…今から隼人さん呼び出すから!
絶対許せねぇ…!』


マツの顔は、怒りに満ちていた。


だけど瞬間、携帯を取り出そうとしていたマツの手を止めて。



「マツ!やめて!!
宣戦布告されたんだよ?!
こんな姿、隼人には見られたくないから…!」


『でも―――』


「マツ!お願いだから!!」


必死で言うあたしに、マツは悔しそうに携帯を握り締めて。



『…わかったよ。』


ポツリとそれだけ言った。


季節はいつの間にか12月に変わっていて、

いつもは幸せな気分になるイルミネーションも、今は憎くて仕方がなかった。



気にすることはない。


あたしはまだ、大丈夫。


何度も言い聞かせ続けた。




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