粉雪
「…ねぇ、隼人…。
一緒に死のう…?
あたしと一緒だったら、死んでも良いんでしょ…?」


ガラス片を握り締めながら聞いた。


死ぬことでこの地獄が終わるなら、もぉそれだけで良い。


隼人と一緒なら、どこへだって行けるんだ。



『…ちーちゃんが死ぬことねぇから。
後ちょっとしたら、あの女は殺す。』


「―――ッ!」


だけど隼人は、そう言ったんだ。


本気の目で、“あの女は殺す”と。


瞬間、持っていたガラス片が手から抜け落ちて。


カシャンと音を立てた。



「隼人は何がしたいの?!
何であの女に一番嫌いな香水つけさせてるの?!」


唇を噛み締めた。


ただ、悔しくて悔しくて。



「何であの女なのよ!!」


涙が止まらなかった。


いっそ相手が、知らない女であればと、何度思ったことだろう。



『…俺は、情報が欲しいだけだ…。
だからアイツは、俺が一番嫌いなように変えた。
俺は、ちーちゃんのものだから。』


「―――ッ!」


ペアのフランクミューラーを付けた左手で隼人は、

あたしの頭を優しく撫でてくれた。


お揃いの時計と、お揃いの香水。


“小林隼人”として、あたしの前だけで優しく笑ってくれる。


隼人は、何も変わっていなかった。


今更あたしは、そんな大切なことに気付いたんだ。



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