粉雪
雨に打たれた真っ赤な傘は、道端に転がっていた。


隼人の流れ出る鮮血は、まるでその場所に行こうとするように見えて。


離れた場所に転がる隼人の傘が、

そのままあたし達の距離を表しているようだと思った。




「…嘘…でしょ…?」



冷たくなった隼人の体を抱き、揺らし続けたのに、

隼人が再びあたしに笑顔を向けることはなかった。




「ねぇ、起きてよ!!
独りで死ぬなんて許さない!!」



隼人はただ、悲しそうに笑うばかりだった。


海に行く約束も、“ずっと傍に居る”って約束も守ってくれない。


隼人はあたしに嘘なんかつくような男じゃなかったのに。


散々刺されても、死ななかったのに。



こんなの…


嘘に決まってるよ…!



折角これから、二人で幸せになれると思ったのに。


なのに隼人は、いつまで経っても目を覚まさなくて。




「…嘘つき…」



こんな現実、あたしは受け止めきれないよ。


隼人が居ない世界でなんて、あたしは生きられない。




次第に隼人の体は、熱を失っていって。


あたしの涙は、この雨のように枯れ果てることはなかった。





< 239 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop