粉雪
トボトボと、歩き続けて。


あたしには、“帰る場所”なんてもぉないんだ。




『―――よぉ、お穣ちゃん。
乗ってくだろ?』


「―――ッ!」


瞬間、ゆっくりと顔を上げた。



「…河本…!」


角を曲がると、そこには河本が立ち、あたしに向かって薄ら笑いを浮かべていた。


目を見開いたまま立ち尽くすあたしに、河本は言葉を続ける。



―パサッ…

『騒ぎになってるぜ?
歩いて帰ったら、アンタはマスコミの恰好のネタだ。』


「―――ッ!」


足元に投げられたのは、一冊の週刊誌。



“詐欺師の正体と、貢がれ続けた女”


実にくだらない内容に、笑うことすら出来ない。


当時、これといった事件もなく、隼人の死とあたしの存在は、

面白おかしくマスコミの話題にのぼった。


記事の内容によると、

あたしは隼人が詐欺で稼いだお金で豪遊していたことになっていて、とんだ“悪女”だ。


そして、事実とも分からないような話を、過去から洗い浚い脚色されていた。


いつの間に撮られたのか分からないような葬儀中の写真まであって。


あたしの顔にはモザイクが掛けられ、その姿はひどく滑稽だった。



“散々搾り取られ、最期はその女のために死んだこの詐欺師は、前代未聞のお人好しと言えるだろう”


これが、最期の一行。



何にも知らないくせに…!


隼人のこと悪く言わないでよ…!!




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