粉雪
『分かったら、乗りな!』


河本は、後ろの車を指差した。


だけどあたしは唇を噛み締め、睨み付けて。



「アンタは隼人を殺そうとした!
あたしは知ってるんだから!
アンタこそ、死ぬ覚悟あるの?」



元はと言えば、コイツが全てを狂わせたんだ!



『…ポリの前で、何言ってんだ?
それじゃアンタ、立派な“計画殺人”だぜ?』


「今更、怖いものなんてないから!」


『ハッ!
やれるモンならやってみろ!乗れ!』


河本を睨みながら、車の後部座席に乗り込んだ。


正直、こんなヤツと同じ空気を吸っているだけでも吐きそうだ。


誰のともわからないような整髪料の匂いばかり鼻について。


ゆっくりと河本は、こちらを見ずに口を開いた。



『…悪いが、アイツを殺そうとしたのは俺じゃない。
オヤジだ。』


「―――ッ!」



“オヤジ”って、香西組長…?



「…アンタ、あたしのこと怖くなったの?
デタラメ言われても、信じないよ!」


『信じなくても、事実だ。』


「―――ッ!」


その目は、とても嘘を言っている様な目ではなかった。


戸惑うあたしに、河本は更に言葉を続ける。



『…本田…いや、“小林”か?
ヤツは、俺まで騙してたんだな。
ハッ!本当に、惜しいヤツだったよ。』


煙草を咥えた河本は、窓の外を見つめた。



『…ポン中がパクられたのは、知ってるか?
あれで、俺もヤバかったんだ。
あの取引は、親父とは別ルートだったモンでな。』



語られだしていく“本当の真実”に、心臓が早くなる。




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