粉雪
手紙
―――部屋に入ると、そこは本当に荒れ果てていた。


警察が何もかもを持って行き、本棚にあった物は全てが床に散乱していた。



隼人のスカルプチャーの香りが漂うこの部屋は、

出て行ったあの日から何も変わっていない。


愛し合ったベッドも、

隼人の為だけにご飯を作り続けたキッチンも、

笑い合った白のソファーも、全てがそのままだった。


一つだけ違うのは、もぉこの世に隼人が存在していないことだけ。


静寂ばかりがあたしを包む。


ただ、涙ばかりが溢れて。


本当にこの部屋は、思い出がありすぎる。




散々泣き続けても、涙は果てる事がなかった。



あの人の傍に行かなきゃ…


隼人はきっと、独りで寂しがっている…


あたしが居ないと、ホントに生きていけない人だから…




死ぬことは、怖いことじゃなかった。


隼人の居ないこの世界で生きる事の方が、余程“地獄”に感じてしまう。





隼人…待っててね…?




手首に剃刀を当て、天を仰いだ―――…







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