粉雪
この男と居ると、本当に怖いものが無いように見える。


誰も居ないと2車線あるところの真ん中を走ってみたり、

邪魔な車をパッシングしながら煽ってみたり。


初めはビビって注意していたが、いい加減見ないフリをしてトッポを開けた。




『大丈夫だよ、俺は捕まらないから。』



さっきから、何度となく聞いている台詞だ。


ヤバイ男は、何人かスナックで相手をしてきたから、すぐにわかる。


絶対の自信でこんなことを言う隼人は、間違いなくヤバイことをやっている。




「…アンタが捕まろうと、あたしには関係ないから。
事故だけはしないでね?
あたしまだ、死にたくないんだ。」


『あははっ!わかってるって!(笑)』



ホントにわかってるか、疑問だ。




『…ちーちゃんって不思議だよね。
俺のこと、何にも聞いてこないし。』


「…興味ないだけだよ。
それに、聞いたら後悔するような事だって、世の中にはたくさんあるから。」


隼人の煙草を抜き取り、火をつけた。


見つめる窓の外は、相変わらずの変わらない景色。



『すげぇな!
そんなやつ、初めて!!(笑)』


「…あたしの母親、スナックしてるから。
手伝ってると、色んな人見るし。」



普通の人に言えば、絶対に白い目で見られるから隠していたが、

隼人になら言っても驚かれないだろうと思った。



『そうなんだ!
じゃあ、“掛け持ち”ってソレ?』


「違うよ、スナックは人手不足の時にだけ。
洗い物したり、雑用だから。
お金ももらえないし。
普段は、ガソリンスタンドとファミレス。
夏休みは朝だけコンビニもしてたけど。」



何でこんな男に、ベラベラと自分の身の上話をしているのかがわからない。


だけど、他に何も話す事なんてなかった。


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