粉雪
『…“あぁ、だからこの人変わったんだ”って思ったよ。
多分、あの人包み込んでたのはアンタの方だよ。
だから、手放せないのもわかる気がする。』


マツは最後の煙を吐き出し、そして煙草を足元に投げた。



『…まぁ、俺はてっきり化粧の濃い女が好きなんだと思ってたけどな。
でもアンタ、すげぇ綺麗だと思うよ?
アンタみたいな女、どこに落ちてんの?』


そう言うと、マツは少しだけあたしに笑いかけて。


マツは優しいヤツなんだ、って。


その時初めて気付いたから。



「ははっ!
アンタになんか見つけられないよ。」


『うわっ!ムカつく!』


マツは歯を見せて笑って。


やっとあたしは、少しだけ笑うことが出来たんだ。



「…隼人、化粧の濃い女嫌いって言ってたよ?
あたしが飲み屋の女みたいな格好したら、すっごい怒るの!」


『…アンタは、“他の女と違う”ってことだろ?
あの人多分、まともに女愛したことねぇんじゃねぇの?
だから、アンタを閉じ込めることしか出来なかったんだよ。』


ため息をつき、マツはしゃがみ込んだ。



「…あたしも隼人も、狂ってたと思う…?」


そう聞いてあたしは、その隣に同じようにしゃがみ込む。


そんなあたしを横目に捕らえ、マツはまた水面に視線を戻した。



『…俺から見ればな。
けど、二人がそれで良かったんなら、他人が口挟む事じゃねぇから。
あの人の執着心とか独占欲は、ハンパじゃなかった。
何かもぉ、その為なら人でも殺しそうなほどだよ。』


「―――ッ!」



ホントにそうだ…。


実際、隼人はあたしの昔の仲間を殺した。



「…あたしは、それでも良かったよ…。」


『…じゃあ、アンタも相当狂ってるな…。』


マツは悲しそうに遠くを見つめるばかりで。




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