粉雪
『…そろそろ帰らねぇ?
こんなトコで語り合ってたら、風邪引くだろ?』


「…そうだね…。
隼人に怒られるもんね…。」


そして、一緒に立ち上がった。


歩き出したマツは、振り返って聞いてくる。




『これから、どーすんの?』


「…アンタは帰りなよ。
あたしはココに残ろうと思う。」


『―――ッ!』


目を見開くマツに、だけどあたしは言葉を続けた。



「…ここに居ると、隼人の事思い出せるから…。
やっぱりあたしには、隼人しか居ないんだ…。」


『…そう…。
じゃあ、俺も付き合ってやるよ。』


諦めたようにそう言うマツに、あたしは驚きを隠せなくて。



「アンタ、何言ってんの?!」


『…監視しとかないと、また自殺でもされたら困るだろ?
それに、俺も行く場所ないしさ。
“小林隼人”を知ってるの、俺とアンタしか居ないだろ?
酒でも飲みながら、一緒に思い出話に付き合ってやるよ。』


「―――ッ!」



あたしって、そこまで心配されてるんだろうか。



「…マツ…アンタ優しいね…。」



堅気に戻ったマツに、行く場所はない。


それは、あたしも同じこと。


マツの優しさが、あたしの胸を締め付けて。



「アンタ、顔はイカついけど、笑ってる方が良いよ?」


『…嫌味かよ…。』


日が沈みきり、真っ暗になった海で、少しだけ笑った。



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