粉雪
『ママ~、酒!』


常連客の柴田さんが、赤い顔をしてグラスを持ち上げた。



「ダーメ!
今日は帰りなよ!
奥さん、待ってるんでしょ?」


『…良いよ、放っときゃ…。』



喧嘩でも、したのかな…?



「ダメだって!
それに、待たされるのも結構辛いんだよ?
明日奥さん死んだら、柴田さん後悔することになるよ?」


『…わかったよ…。
ったく…ママには敵わねぇな…。』


立ち上がり、会計を済ませた柴田さんを見送った。



まるで、自分自身に重ね合わせてるみたいな台詞。


だけど、もぉ誰にもあたしみたいな想いはして欲しくないんだ。





『…聞いてる方が耳が痛いな…。』


あたしを見て、マツはため息を混じらせた。



「…でも、本当のことだから…。
心配しながら待つの、嫌いだったんだ。」


『…可哀想な事するよ、あの人も…。』


「…ホントだよ…」



マツはあたし達のこと、ずっと傍で見てきたもんね…。



『…やっぱ、俺があの時止めときゃ良かったんだな…。』


「―――ッ!」


瞬間、あたしは唇を噛み締めて。



「…それ以上言わないで…。
あれは、マツの所為じゃないから…。」



隼人が死んだのは、誰の所為でもない…。



『…お前の所為でもないぞ…?』


「…わかってるよ。
ありがとね…。」


こんな会話を、もぉ何度繰り返しただろう。


いつもいつも、“あの時…”って思ってしまう。



< 267 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop