粉雪
粉雪
―――季節はいつの間にか冬になり、

海辺のこの街は、あたしが生まれ育った街よりも寒い。


今日は隼人の一周忌。


外には粉雪が舞っていた。




―カラン…

『さっむ!』


「あっ!マツ~♪
遅いよ~!」


上着の襟を立てて入ってくるマツを、笑顔で出迎えた。



「…ねぇ、買って来てくれた?」


『…そうだよ、すっげぇ探し回ったんだけど!
何だよ、“金平糖買って来て!”って?!』


「あははっ!食べたかったの♪」


買い物袋を受け取り、マツに笑顔を向けた。



『…あの人、そんなモン好きじゃねぇだろ?』


「…優しいパパなんだよ、隼人は…。」


少し気を使ったように言うマツをいつもの席に通した。


瞬間、マツは眉をしかめて。



『…“パパ”って何…?』


「…今日、一周忌でしょ?
多分今、あの人空の上で赤ちゃんと居るから…。」


『オイ―――』


「こーちゃんもいらっしゃい♪
寒かったでしょ~?」


マツの言葉を遮り、他の客に笑顔を向けた。



このお店を立ち上げる前、海の見える丘に墓地を発見し、隼人をそこに埋葬した。


あたしが死んだら、“小林家の墓”に一緒に入れてもらう予定だ。




“小林千里”


いつの間にか、そんな風に名乗っていた。



< 271 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop