粉雪
『いい加減にしろよ!!
もお1年だぞ?!』


「…“まだ1年”だよ。
あたしの中では、“終わったこと”に出来ないから…。」


そう言ってあたしは、煙草を咥えた。


マツの言いたいことはわかってる。


けど、忘れようとは思わないんだ。



「…マツ、ありがとね?
あたしより先に、お墓参り行ってくれたんでしょ?
お花…あったから…。」


『…やめとけよ…!
いい加減、あんな男忘れろよ!!』


搾り出すように言うマツに、胸が苦しくなる。



「…ごめん。
マツが支えてくれたからこうやって生きてられるのは、十分すぎるくらいにわかってるんだ。
でも、やっぱりあたしには隼人しかいないから。」


『…何だよ…ソレ…!』


マツの顔を、あたしは見ることが出来なかったんだ。


何で隼人の一周忌に、こんなことで喧嘩をしなきゃいけないんだろう、って。


そんなことが、ただ悲しかった。




「…やめようよ、こんな話。
今日、一周忌だよ?」


『だから言ってんだよ!
今日、アイツと決別しろよ!
いい加減、俺にしとけよ!!』


マツの言葉が、あたしに突き刺さって。



「…それは…出来ないから…。」


目を伏せてあたしは、煙を吐き出した。


漂いながらそれが、天井へと消えていって。



「…隼人と出会った日と、命日と、マツと付き合う日が重なるなんて、あたしには出来ない。
ごめん…隼人とマツは違うから…。」


『…もぉ…限界なんだよ…!』


「…ごめん…」


あたしはただ、マツの言葉に謝ることしか出来なかった。


昔と、逆みたいだね。



マツはいつの間にか隼人のことを、

“目標”から“越えられない壁”として憎むようになっていた。


死んでしまった人間を、追い越すことなんて出来ないから。


隼人の死に縛られ続けているのは、あたしだけじゃないみたいだね。


それが少しだけ、悲しかったんだ。




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