粉雪
『…“美人の若ママがいる店”だってさ。
結構人気出てるじゃん。』


店内を見渡したマツは、ポツリと呟いた。



「…おかげ様でね。
でも、知らないトコでアンタがあたしの“彼氏”とかになってるから、誰もあたしのこと口説いてくれないんだよ?(笑)」


『…まぁ、良いじゃん。
蠅除けくらいにはなるだろ?』


煙草を咥えたマツは、少しだけ笑った。



「…でも、そーゆーアンタは、隣のビルのキャバクラの子と付き合ってるんでしょ?
ルミちゃんが一緒に歩いてるとこ見たって。」


『…飯食っただけだろ?
あのクソガキの言うこと、真に受けるなよ。』


「…でもあのキャバクラの子、すぐヤらせてくれそうな顔してるじゃん。
アンタのタイプなんでしょ?(笑)」


『…お前、マジでムカつくな。
お前が俺のこと見ようとしねぇからだよ。』


煙を吐き出したマツは、煙草を灰皿に押し付けて。


マツがあたしを見ていたのは、もぉ大分前から気付いていた。


だけどそれでも、マツには別の誰かと幸せになって欲しいと思う。


あたしなんかに縛られないで欲しい。


そう思う反面、ホントにそうなったら、それはそれで悲しいのだろう。


きっとあたしは、欲張りなんだと思う。



「…隼人…ホントにもぉ居ないんだね…。」


金平糖を指で転がしながら、あたしは呟いた。


やっとこんな風にして、口に出して言えるようになった。


きっと、マツが言った通り、

あたしが思うよりずっと、月日は流れてるのかもしれない。



『…今も、愛してるんだな。』


「…これからもずっとだよ…。」


ガラス瓶のコルクの蓋を外し、一粒だけ取ってそれに入れた。


カランと綺麗な音が響いて。




『…いつまで続けんの…?』


「…永遠に…かな。
わかんないよ、今は何も。
隼人より良い男見つけたら、さっさと乗り換えるかもしれないし。」


そして、ガラス瓶を棚の上に戻した。


寄り添うように金平糖が、二つ並ぶ。



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