粉雪
―バタン!

どれくらい時間が経ったのだろう、ドアの音で目が覚めた。



『…ごめんな?
起こした?』


あたしに気付いた隼人は、申し訳なさそうに聞いてきた。



「…いや、大丈夫だよ。
終わったの?」


体を起こして髪の毛を直した。


背伸びをすると、体中が軋むように痛い。



『おー!話長くてごめんな?』


「…そうなの?
あれからそんなに経ったんだ。」


時計を見ると、あたしが寝てから1時間近く経っていて。


外を見ると、黒塗りの車の姿は、既になくなっていた。


代わりに広がるのは、真っ暗闇の景色だけ。




「…外、寒かったんじゃない?」


『あははっ!そうなんだって!』


まだうつろな目で投げかけるあたしに、相変わらず隼人は笑顔を向ける。



「…アンタが風邪引かないでね?」


『心配してくれてんの?』


「…違うよ、あたしにうつされたら迷惑なだけ。」


シートを戻してあたしは、煙草を咥えた。



『あははっ!じゃあ、暖めてよ!』


「…やだよ。」


火をつけると、隼人を睨んだ。


体中を駆け巡るニコチンのおかげで、やっとあたしの頭は正常に戻る。



『残念~(笑)
よし、じゃあ山下りて何か食べよ?』


う~んと背伸びをした隼人は、言葉を紡いで。



「…あたし、お寿司食べたい。」


『おっ!良いね!
美味しいトコ知ってるから、そこでいい?』


「…どこでも良いよ。」



家に帰ったら、本当に着信拒否にすることに決めた。


あたしとコイツは、住む世界が違う。


< 29 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop