粉雪
「…この街って、ホントに何も無いんだね。」


同じ県内でも、あたしの住む街とは景色が全く違っていた。


街灯さえまばらな上に、ビルの一つも見当たらない。



『初めて来た?』


「…うん。
隼人は来たことあるの?」


『…取引の時だけだけどな?
何度か来てるし、大体はわかるよ。』


「ふ~ん。
この街って、何かあるの?」


あたしの目に映っているのは、相変わらずの田んぼと、

点々と民家が立ち並んでいるだけ。



『…見ての通り。』


「ははっ、やっぱり?」


『ラブホもないとか、ありえねぇだろ?(笑)』


「あははっ!若者いないからなんじゃない?」


『…まぁ、これだけ隣の家と離れてたら、変な事しても声聞こえねぇよな!(笑)』


隼人は、イタズラに笑った。


大通りを走っていても、すれ違うのは数えるほど車だけ。


誰も知らない街に居ると、日々の生活から少しだけ解放された気がした。




♪~♪~♪


「…どっから鳴ってるの?」


隼人のポケットからではない着信音に、不思議に思って問いかけた。



『あぁ、後ろのバッグの中だよ。
ごめん、取って?』


言われるがまま、後ろの席に置かれた黒皮のセカンドバッグに手を伸ばした。


あたしからバッグを受け取った隼人は、

光っている携帯を取り出すと、通話ボタンを押す。




―ピッ…

『―――ハイ。
今は、県境ですよ?
ははっ、ちょっと別件で。
え?そんなんじゃねぇっすよ!
お土産?ばーさんラチっときますか?
あははっ!嘘っすよ!
わかりました。また連絡します。』


仕事の話なのだろうか隼人は、早めに切るとため息をつく。


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